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石崎まめ

タイムスリップ

更新日:2020年4月28日

 いつも通っていたジムが休館になって運動不足なので、最近は歩いて買い物に出かけることにしている。今日は少し離れたスーパーまで歩くことにした。道路沿いの道を5分ほど歩いていると、向かい側の歩道に、20歳前後ぐらいの男女が立ち話をしているのが見えた。女の子は自転車のハンドルを握ったまま立っている。カバンも持たず、ふらっと出てきたような様子の二人。しばらく話したあと、女の子が彼に向かって手を振る仕草をした。でも、見つめ合ったまま二人は動こうとしない。女の子が笑い出す。そしてまた手を振る。そんなことを何度か繰り返している。


 声が聞こえてくるようだった。

「〇〇くんが行ったらわたしも帰る」

「〇〇ちゃんが先に行きなよ」

「じゃ、せーのでいっしょに後ろ向こう」

(昔、こういうドラマがあったな)


 4月7日、緊急事態宣言が発令された。会いたい人に会えないのはみんな同じだ。それでも少しだけでも会いたくて、自転車を飛ばして彼の家の近くまで来たのだろう。ふと、若かった頃の自分を思い出した。携帯電話どころかポケベルさえもなかった頃、新宿駅で7時間人を待ったことがある。結局わたしが待ち合わせ場所を間違えていたのだけど、会いたいという気持ちだけで、そんなに長い時間、よく待てたものだと思う。若かった。


 女の子の自転車が走り出した。長い坂道を下る途中、何度も何度も振り返って手を振る彼女とその姿が消えるまでじっと見送る彼の背中を見ながら、しばし、数十年前の新宿南口にタイムスリップした。


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